「言える?私…」


オドオドしないで言える?
今日限りにして下さいって、あの男を見て言うのよ?



「自信ないなぁ」



アガリ症だから人と話すの苦手なのよ。
昨夜みたいにお酒の力を借りたり激怒してれば平気だけど。



(下手して吃ったらどうする?)


人事が私を検品課にしたのも当たり前。
入社試験の時、かなり緊張して吃りがひどかったから。


幸いにも叔父さんがオフィスの部長だったから試験はなんとか通った。
でも、パソコンも人相手もできない私は、ものを言わない商品とだけ向き合える部署に配属された。


花見の席で郁也と意気投合したのもお酒の力を借りてたからだ。
映画を見てもスクリューコースターに乗っても反応が薄かったのは、口を開くと吃ってしまいそうだったせいもある。


短い言葉なら吃らずに言えた。
だけど、それじゃ会話は弾むわけもなく。


郁也があの子を選んだのも当然。
花見の時とは別人の私に、違和感を感じたんだと思う。



(なのに、今度はあのヤンキーが相手……)


マズい。マズい。
非常にマズい。


(ああもう……どうすりゃいいのよ……)



ビーサン投げつけて帰る?
そんなことしたら何をされるか……



「怖い〜〜」


聖について来てと頼んでみようか。そしたら幾らか心強い。



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『土曜日ヒマ?』


待つでもなく返ってきた言葉は……