「赤と黒?」


昨夜、自分が追いかけた金魚が思い出された。


「何か思い当たるフシでもアリ?」


聖が聞き返す。


「ううん、何も。可愛いね」


副社長とは入社式と真綾の結婚披露宴の時に会ったきり。
普段はオフィスの最上階で仕事をしているから顔も合わせたことがない。


どんな人だったかも忘れた。
イケメンかどうかも覚えがない。



「副社長は遊び人だって噂を聞いたことがあるんだけどホント?」


聖がオフィスに漂う噂を口にした。


「じゃあ昨夜もデートだったとか?」


彼女からのプレゼントか。
羨ましい話だ。


「遊び人かどうかは知らないよ。ただ、毎週末家にいないのは確かね」


社長の両親と弟の副社長がいる家で同居をしてる真綾。

一見すると大変そうだけど、広い家だから一緒に暮らしてても気にならないんだそうだ。



(なんと言っても真綾は社長に溺愛されてるからね……)


熱烈なアプローチを受けて結婚に辿り着いた二人。

私は男に二股をかけられて捨てられたと言うのに、この差は一体何だろう。





(……そうか。顔だ…)



美人でハーフっぽい顔立ちの真綾は、スッピンのままでも見られる。

メイクしても映えない自分と比べても全くの別人種。


このアッサリした顔でいる限り、誰とも付き合えないような気がする。

郁也ほど酷い男ではないにしても、きっと誰にも振り向いてもらえないんだ。