ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「金魚と言えばね、副社長ったら可愛いのよ」


くすくす…と小声で笑いだした。


「昨夜、いきなり金魚を飼い始めたの。しかも、何故かどんぶりに!」


「どんぶり?」

「どんなのそれ」


私と聖は顔を見合わせた。

社長の奥さんでもある真綾は、内緒よ…と言って教えてくれた。


「昨夜遅くに帰ってきたから、お夜食でも作ってあげようかとキッチンへ行ったの。そしたら、家にあった伊万里焼のどんぶりに水を張ってるから、何してるの?って声をかけたら金魚を1匹袋に入れてて。『貰った』って言って見せてくれて」


「それで飼い始めたの?」

「金魚ってどんぶりで飼えるものなの?」


驚く私と聖に目を向ける。
セレブの生活とは縁のない私達に、真綾は「そうらしいよ」と答えた。


「前に祐輔(ゆうすけ)さんのお供で取引先へ行ったことがあるんだけど、その時、社長室のテーブルの上で飼われているどんぶり金魚を見かけたことがあるから」


祐輔さんというのは、うちのオフィスの代表取締役だ。
その秘書をしていた真綾は彼に見初められ、誰もが羨むようなシンデレラストーリーを手に入れた。



「へぇー」

「お金持ちのやることはわからないね」


伊万里焼のどんぶりに入った金魚を想像してみた。
なかなかピンとこなくて一度見てみたい…と思った。



「どんな金魚なの?」

「ん?赤と黒が混じったような金魚で、尾ビレがヒラヒラしてて可愛かったと思う」