ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

ギクギクと怯える。
ここでファーストキスまで奪われたなんて、絶対に口が裂けても言えない。



「どんな男か教えて」

「カッコイイの?」


「え……どうだろ」


サングラスを外した顔を思い出す。

鼻筋は通ってた。
二重瞼の筋もくっきりだったから堀の深い顔立ちではあったに違いない。


唇はどうだった?


あったかくて柔らかだったことしか記憶にないよ……。



かぁ~~っと顔が熱くなった。
離れていく顔を思い出して、急に胸が苦しくなった。



「蛍?」

「どうしたの?」


二人が顔を覗き込む。
そんなことをされたら余計に熱を帯びる。



「ごめん!もう聞かないで!」


あんなこと絶対しない。
見も知らない人とキスなんて、昨日の私はどうかしてた。


ストローを外してコーヒーを飲み干した。
慌てたせいで咳き込み、ドキドキ鳴り響く胸の音に耳をすませる。


聖と真綾はあんぐりと口を開けている。
私は二人を見ないようテーブルの下へ目線を落とした。



「どうせ連絡はしないからいいの」


向こうから来るとも思ってない。


「からかわれたんだと思う。ヤケクソで金魚すくいしたから」


逃げ惑う金魚を思い浮かべた。



「金魚?」

「掬えたの?」


「ううん。逃げられた」


しゅん…と肩を竦める。
気まずい雰囲気になり、真綾は慌てて話を変えた。