(ひゃっ…!)


ビクビクしながら相手の唇が重なる。
離れていく感触で初めてそれがわかった。



(えっ……?)


目を開けて呆然と前を見つめる。
日焼けした浅黒い顔の男が私のことを見ている。


「今日から俺が彼氏な」


照れたように見えるけど、これは私が少しぼぅっとしてるせい?



「俺の名前は谷口大輔(たにぐち だいすけ)。あんたは?」

「の…乃坂蛍(のさか けい)……」

「『けい』ってどんな字?」

「ほ、蛍……」


急にキスしたんだと実感してきた。
今目の前にいる男と26年間で初めてのキスをした。



「ホタルか。神秘的な名前だな」


ニッと顔を綻ばせる。
さっきのクシャッとした笑顔とは違う、また別の顔を見せた。


「連絡先教えろ。それよりも先ずは食べろ」


私がグチャグチャにしたタコ焼きは自分の口に放った。
新しいタコ焼きに爪楊枝を刺し、ぼぅっとしてる私の口に投げ込んだ。


ソースの味とタコの硬さが現実だと言ってる。
軽い男に騙された後、今度はヤンキー男の彼女にされそうになってる。



(なんで私がこの男の彼女になるの?)


唖然としたままモグモグと料理を食べ続けた。
どれも美味しかったと思うけど、何がどう美味しかったかも思い出せないくらい混乱していた。



気づくとヤンキー男の谷口に連れられて神社の鳥居の辺りまで来ていた。
手にはお土産と称して持たされた露店の料理とスマホが握られていて。