大輔さんの手を握って、何度も何度も頭を下げるおばあちゃん。
その手をしっかり握り返して、彼は「任せて下さい」と胸を張った。



お昼は庶民的なソーメンをご馳走した。

「大好きなんだ」と言いながら食べ終わった彼を見送り、玄関先でスマホを開けば、聖から矢のようなメッセージが届いていて。



『谷口さんが副社長だと教えてくれれば良かったのに!』

『真綾に聞かされて驚いたじゃない!』

『友達でもいいからいい人紹介してよ』

『真綾と蛍ばっかシアワセにはさせないんだからね』


笑いながら読んで『ごめん』と送り返した。


『大輔さんに頼んで、とびっきりのいい男を紹介してもらうよ』…と付け足した。


自分の部屋に戻って、机の引き出しからスケッチブックを取り出す。


HBの鉛筆を片手に、グループが開発中でもある玩具のデザインを考えた。



(んーと……)


今期のクリスマス商戦に向けたデザインには、敢えて反対の季節のものを描いてみようか。




『カラン、カラン……』


空かした窓から隙間風が吹いて、透明なガラス音が部屋中に響く。

夏祭りの夜にプレゼントされた金魚鉢型の風鈴は、上司との愛の始まりを明るく物語るように鳴り響いていた。




END