ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

そのいろんなことが起こった人生の中に私も含まれてる?

丼の中にいるあのキャリコのことはどう?


お堂の中は静かで何も聞こえてこないはずだった。なのに、外から響くセミの声が、まるで読経のように聞こえてくる。

同じリズムで淡々と響き渡り、心を騒つかせてしまう……。



ほんの数十秒間がとても長く感じられた。
横にいる人が頭を上げたから、私はようやく一息ついた。



「この寺さ……」


轟さんの声がして振り向いた。
彼の視線は如来像に注がれてる。


「無縁仏を預かる寺なんだ。犯罪を犯した人とか身寄りのない人の骨が集まる場所」


自分の父親もそれと同じ身の上だと言ってるような感じ。
でも、それならお参りに来る人がいないのも頷ける。


「俺がここへ来たわけは、これから先の人生、間違ってもケイに手を上げないと宣言する為なんだ」


眼差しが振り向いて胸が鳴った。
難しそうな顔をしている彼をじっと眺めてしまった。


「俺の親父は酒癖が悪くて、飲むと必ず母親を殴った。罵声なんて当たり前だった。酔い潰れるまで、ずっと殴られ続けてる母親を何度も見たことがある」


ぎゅっと手の平を握った。
その光景を考えるだけで、背筋が寒くなった。


「俺は何度も止めに入ろうとしたんだ。でも、その度に母親が俺を庇う。殴られるのは自分だけでいい。大輔は殴られないで…って」


思い出したんだろう。
少しだけ声が震えた。
目の中が潤んでる。でも、泣こうとはしない。