お寺に着くまでの間、轟さんはずっとイライラしてるみたいだった。

原因が何か分からなかったけど、まるで腫れ物に触るような心地だった。


走ってる間はまだ良かった。でも、信号待ちとかで止まるとサイアク。

イライラしながら舌打ち。それから青に変わるまでの間、ずっとハンドルの上で指がトントンと動く。


声をかけると怒鳴られそうで怖くて、だからと言って無視してるのも恐ろしい。

何かを話さないといけないのは分かる。
でも、この状況で話せることは何も思い浮かばなくて。



(えーーん!何とかならないのーー!?)


いきなり、どうしてお寺へ行こうと決めたの?
報告するとか言ってたけど、何を報告するつもりなんだ。


そこには私が居ないといけない?
一人の方がいいんじゃない?


時々横顔を眺めながら様子を伺う。
怒ったような人の顔色がそれ以上悪くなってないか。



お寺は思ったよりも近場にあった。
市内の繁華街を外れた物寂しい場所に建ってる。


お寺の周辺は木々が生い茂り、独特な雰囲気が漂う。
併設された駐車場に車を止めると、轟さんは大きく息を吐いた。



「行こう…」


声のトーンを押さえて呟く。
その声に頷き、カチャ…とシートベルトを外した。

その音に反応するかのように轟さんもベルトを外す。
肩口に上がっていくベルトの帯を見つめながら彼が悩んでいるような気がした。