ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「うそっ!」

「ウソついてどうする。心配しなくても足が出た分は俺が出すから気にするな」


「えっ。だ、ダメよ!」


それじゃ何のためにここへ連れてこられたのかわからない。

そもそもは私が郁也のことを知らずにお祭りへ誘ったのがいけなかったのに、彼の裏切りを知って激怒した。

その怒りを抱いたまま気持ちを全部金魚にぶつけてしまった。


この人はそんな私を見つめながら、怖がって逃げ惑う魚の危機を救っただけ。

なのにお金をかけさせるなんて、私のプライドが許さない。


「そんなに意固地にならなくてもいいじゃねぇか。何があったか知らないけど祭りに来たんなら楽しもうぜ。折角キレイな格好もしてるんだし、旨い物でも食べていい思い出作れよ」


尤もなことを言う。
その言葉の通りにできれば、どんなに楽か知れない。




「……いい思い出になんてならないよ」



初めてできた彼氏だと思ってたのに両天秤にかけられてた。
郁也はあの子と私を比べなからあっちの方がいいと選んだ。


私はそんな彼のことを疑わずにいた。
デートの楽しみ方も知らず、ただ舞い上がってただけだった。


「誘った彼氏には別の女がいたの。私はそれを知らず、ただ彼に褒められたくてこの格好をしてきただけだから……」


時間がなくて焦って真綾に浴衣を借りた。
似合うメイクも知らないから雑誌に載ってる通りに塗った。

そんな自分らしくもない格好で、いい思い出なんて作れるはずがないーー。