ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「だったら鈴木さんも上がっていいよ。今夜は俺も飯いらないから」


ドキン!と心臓が跳ね上がった。
それって、いったいどういう意味なの!?



「左様でございますか。では定時で上がらせて頂きます」


ちらっと私の方に目を配り、すました表情で答える。
轟さんは、うん…と頷き、背中を前に押した。


「来いよ」


(や…ヤダ!)


竦みそうになりながらも、なんとか足を踏み出す。
これから私と彼との間に何が始まるっていうの?



(ヤダもう……心臓がどうにかなりそう……)


震えながら進んだ。
足元を見つめながら、階段を上りかけて思った。


(きっとシンデレラも初めてお城の階段を上った時は緊張したよね……)


そうだよね。
そうでないと変だもん。




納得しつつ3階建ての最上階に上がると、轟さんは一番手前のドアを押し開けた。


「入れよ」


(は…入れと言われても……)


戸惑いながらも今更のような気がする。
ここで逃げ出すのも変だし、きっと逃がしてもくれないんだ。


唾を飲み込んでドアの奥に入った。
木目調の壁が広がる部屋の隅で、ブルーのライトが点けられた場所に目がいった。


「あの丼の中にキャリコがいるぞ」


指差された場所に向かった。
コンコン!と縁を指で突き、轟さんは金魚を呼び寄せた。


「ホタル、おいで」


自然に呼ぶから一瞬「えっ?」と疑った。