ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「結局、中途半端なまま追いかけるのを止めたんだ」


「ど、どうして!?」


問い質す私に目を向け、店に向かって歩き始めた。
少し遅れて足を前に出しながら私は彼の言葉が戻ってくるのを待った。



なかなか返事は戻らなかった。
羅門さんの店の全貌が見え始めて、ようやく口が開いた。


「過去に囚われてばかりいるなと言われた。お前には未来があるだろうって」


「だ…誰に?」


溜まらず聞いた。


「兄貴」


そう言うと立ち止まる。


「社長……?」


真綾のご主人の顔を思い浮かべた。


「そうだ。あの人言葉数少ねぇけど、話す時は的を得ることしか言わねぇ。眼力鋭くて人が見てないところまで見てるし、考えつかないことまで考えて実行する。
俺からしたら完璧な社長タイプ。そういう人が言ったんだ……」

「過去に囚われるなと…?」

「ああ。去った者を追うなって」

「き…切り捨てろって意味?」

「まさか、そこまでは言ってねぇよ」

「でも、追うなってことは……」


捨てろっていう意味でしょう…と言いかけて止めた。
それができる人なら遺体の確認にも行ってないはずだ。


「兄貴はいろんな見方をしろと言いたかっただけだ。過去に囚われてたら一つのことしか見えなくなるから」


いろんなことを吸収して、人間的に大きくなれと言われたんだ…と語った。