ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

ベージュのパンツの上に浸み込んで、茶色の点々が増えてく。



(……待っ…て……)


声を出したいのに、思うように発声できない。
肺の中に空気が溜まり込んでて、出ようともしない。


涙が濡れて視界がボヤける。
溢れてくるものを手で受け取めるのが精一杯で、前すらも見にくい。



「と…どろき…さ…ん……」



違う。そうじゃない。



「だいすけ……さ、ん……」



好きな人の名前はそれだった。
ヤンキーみたいな人だけど、副社長でもある人。

私の前ではただの「大輔」だと言った。
飾りもしないし上司でもないと。

人間らしく悩んだり苦しんでるところを見せた。

息子として、お母さんのことを心から愛してるみたいだった。

お父さんのことも憎んでるけど捨てきれない。

そんな優しい人だから、きっと遺体の確認にも行ったんだ。

辛かったに違いないのに、金魚を見て私のことを思い出してくれた。

わざと明るく話して、暗い心境に陥らないようにした。


寛げない家の中で飼ってるキャリコが彼を癒してるんだとしたら、私はそれと同じように、ただ彼を和ませるだけの存在になれば良かったのにーーー。



「ごめん……なさい……」


いつも甘えさせてもらうばかりで。
優しくしてもらってるのに、本音だけは話そうとしなくて……。

貴方は王子みたいにステキなのに、私は灰かぶり姫のままでいてーーー。



「ひっ……ひっ…く……」