(だって、私……)


今日は最初から会いたくなかったんだもん。
仕事で1週間気を張り詰め過ぎて、心も体もクタクタだったんだもん。



そうとは言えないから押し黙った。
こめかみが痛くなって、鼻の奥がつぅんとしてくる。


(泣いちゃダメ。泣いたらきっと止まらなくなる……)


1週間かそこらで根を上げるなんて情けない。
泣いたらそんな自分を認めてしまうことになるからヤダ。



「……やっぱり頼りにもならないんだな。俺は」


頭の上から注がれた言葉に(えっ…)と思った。


「ケイは俺のことを頼りにもしないんだもんな」


スルッ…と離された途端、手の温もりが急に薄れてしまった。


「俺はケイが居てくれたらそれだけで頑張れるのに、ケイは俺が居てもダメなんだな」


ガッカリしたような声をかけ、足の先が反対を向いた。


「……もういい。わかった」


ボソリと囁くと、足を踏み出す。


「帰るなら好きにしろ。送ってやれないけど、気をつけて帰れ」


前に向かって歩き出した人のアキレス腱が伸びる。
黒いスニーカーとカーゴパンツの隙間に見えてる足が浅黒く日焼けしている。


自分の足元との距離が広がりだして、思い出したように顔を上げた。

見えている背中が寂しそうに肩を下げてる。

ゆっくりだけど、確実に離れていこうとしてる。




(ーーこれでいいの?)


問いかける自分がいた。