私の足は50mも走らない辺りで止められた。
純香さんに話を聞いて店を飛び出してきた轟さんに、ガッチリと二の腕を掴まれたからだ。



「待てよ!」


息を切らした人の声に答えることも振り向くこともできなかった。
顔を見ると泣きそうな気がして、声を出せば泣き声になりそうな気がした。


「帰るってどういうことだよ!」


折角仲間に入れたのに何だその態度は…って言いたそう。


「い……居たって…役にも立ちません…から…」


声を振り絞ってそれだけ答えた。
オフィスだってどこだって、マトモに話せない私は居ても居なくても同じ。
周囲の人に気を遣わせてばかりで、困らせるだけの存在になる。


「最初から役に立とうとしなくていい」


轟さんはそう言ってくれるけど。


(そんなのわかってる。でも……)


私はそんな自分でいるのがイヤで仕方なくて、変わろうとしたんだけどーーー


「ケイ!」


荒っぽく腕を引っ張られた。
二の腕が引きつり、軽い痛みを覚えた。


振り向かされた途端、両方の二の腕を掴まれた。
対面する格好になっても、私は顔を上げれなかった。


「純夏に何か言われたのか?」


「何も」


言われたんじゃない。
教えてくれただけ。


「だったら何で帰るなんて言いだす?」


頭の上から落ちてくる声が問い詰める。
私はますます話せなくなって、ぎゅっと奥歯を噛み締めた。