ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

でも、勇気が出ない。
どうしたらいいか、分からなくて……



「うっ……」


感情だけが先走って泣けてしまった。
みっともなくて恥ずかしいのに、涙が溢れてしようがない。


「そのままのケイでいいんだ。吃ってても可愛いから」


聞こえた声に胸の奥からこみ上げてくるものがあったーーーー



「ふ…くしゃ…ちょ…」


肩書き名を呼んだ。


「大輔」


訂正されて体を離された。
おぼろげに揺れる視界には、優しい顔をした人がいた。


「ケイの前で副社長でいたことは一度もない。谷口でも轟でも、俺は大輔だ」


頬を伝っていった涙を手の平で堰き止める。

話せなくなった私の気持ちを代弁するかのように、彼が話し続けた。


「着飾っててもなくても、『ケイはケイ』だろ」


それと同じだと言って抱きしめた。
胸の奥がいっぱいになり過ぎて、涙が溢れて止まらない。



「だい……すけ……さ…」


ん…は言わせてもらえなかった。
唇が重なって、泣き声すらも封じ込めてしまった。



「ケイ……」


こんなに心を込めて、名前を呼ばれたことがあるだろうか。



「大輔さん……」


好きな人の名前。


ぎゅっ…と体を抱きしめ合った。
しっかりと握った手の中には、愛情がいっぱい詰まってる気がする。


「逃がさない」


抱きすくめる人の胸で息をした。


「逃げないから」


だって、私は金魚じゃないもん。