ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

思いがけない真実を聞かされて、唖然としたまま彼を見た。
口元に笑みを浮かべている彼は、まるで泣き顔を隠してるようにも見えた。


「自信なんて無いまま副社長の座に付いてたんだ。こんな嫌な思いをしてまでもやらなきゃいけねぇ理由がずっと見出せなかった。

シラけた気分で朝礼に出れば、俺と同じような顔してる子が隅の方に立ってる。
同じような雰囲気を醸し出してんな…って思って、それからずっと目で追うようになった。

その子が兄貴の結婚式に出席してたのを見た時、初めて笑ってるところを目にした。
吸い込まれるように笑顔が胸の中に落ちていって、笑ってるところをもっと見たいなって気分になった……」


照れてるような笑みに変わる。
トクン…と響く胸の音は、水の中で金魚が跳ねた時のような感覚にも似てる。



「それからなんだよ。もしかして俺は恵まれてるのかもなって思いだしたのは」


夢みたいな言葉を次々と送られる。
金箔も付けてない人の心を私が潤わしてた……?



(何も……してないのに……?)


毎日一緒にいたわけでもないのに?
真綾の服を借りて、着飾ってしか会えなかったのに?


「…副社長には、何も……してない、です……」



今日初めてホントの自分を見せようと思った。

轟さんが副社長でなければいいと、どんなに祈ったかしれない。

似つかわしくない役職に就かされてるなんて知らなかった。

私と同じように、自信を持てずにずっといたなんて事も……。