ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

金魚鉢なんてのもねぇから、その辺に置いてあったどんぶりの中で飼い始めた。金魚は飼ったこともねぇから、夜通しネットで検索した」


『どんぶり金魚』という飼い方が載ってて、そのままそれを実行したらしい。



「眺めてると最初は怒りばっか湧いてきてた。クソ親父に対するガキん頃からの恨みとかいろいろあって。でも、そのキャリコが俺に近づいて口をパクパクする姿を見てたら不思議と癒された」


やっと口元に笑みが戻る。
ホッとした拍子に囁かれた言葉に思わず赤面したけどーー。


「目を瞑ってた時のケイが頭に浮かんで、堪らないほど可笑しくて」


「なっ……!」


なんだそれは!?


「あの時のキスが初めてみたいに緊張しまくってただろ?」

「はっ…」


(初めてだったんだよ!バカ!!)


プイッと横を向いた。
ククッと笑う声を聞きながら、胸がどんどん鳴ってくる。



「ケイ、俺はな……」


笑うのをやめた人が、穏やかそうに声をかける。
低くて落ち着きのある声が、何かを伝えようとしてる気がして振り向いた。


「金持ちでも何でもないと自分では思ってるんだ。副社長なんて肩書きを与えられてるけど、オフィスではこれと言って仕事らしい仕事もやらせてもらってねぇ。

上役達は俺のことなんて信用もしてねぇし、やる事なす事反対ばっかする。

押し切った行動をとれば悪い噂が立てられる。ガンコだの言いだしたら聞かねーだの、周りが皆敵みてぇな気分だったんだよ、ずっと」