深緑色のパスケースを取り出し、両手で開いて見せてくれた。


「俺と母親とクソ親父」


クソを付けることで辛うじて怒りを抑えてるような気がする。
その親子写真をすぐに閉じ、轟さんは胸の内ポケットにしまい込んだ。


「この写真と同じ写真を警察官から手渡された。仏さんが持ってた物だと言われて」


白い布が被された遺体を対面した。
昔の面影など無く、お父さんかどうかは分かりにくかったそうだ。


「髪なんか白に近くて、痩せてガリガリで頰なんて窪んでた。酒飲んで暴れてた頃の面影なんて一つもなくて、あるのは憎ったらしいと思う俺の感情だけだった」


ほぼ他人にしか見えてないのに、やはりお父さんだと確信した。
頭の中でいろんな感情が湧いてきて、なかなかそれを認められなかったらしい。


自分を落ち着かせようと大きな溜息を一つだけ吐いた。
口を開いた轟さんは、ゆっくりと続きを話した。


「親父に間違いないと言ったら、遺骨の処分について尋ねられた。このまま持って帰られますか、それとも無縁仏としてお寺にご処分を願いますか…って」


冷めた口調のように言うから、怒りなんて感じてないのかと思ったけど……



「誰が持って帰るかって言うんだよ!帰れるわけねーだろ!散々嫌な思いさせられてたのに!」


ビクン!となるほど大きな声で罵った。
スーツじゃなければ、ヤンキー以外の何者にも見えなかったくらいドスが効いてた。