ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「拓磨さんにも進言したりして、秘書なのにいいのかよ…って、ハラハラさせられた。でもさ……」


空を仰ぐ目が嬉しそうで悲しそうに見えた。
何を思い出したのか知らないけど、ふ…と笑って言った。


「イキイキしてたんだ。怯えて親父の顔色ばかりを気にしてた母の姿はどこにもなくて、楽しそうで自信に満ち溢れてた。そんな母親にしてくれたのも拓磨さんなんだなって知って……有難かった……」


会長に尊敬の念を抱いたのはその頃かららしい。
轟さんになる前の「谷口大輔」だった頃のこと。


「一緒になれよと勧めたのは高2になった頃だ。家に帰っても拓磨さんを心配する母親が煩くて、一緒に住めばいいじゃんって、軽い気持ちで話した」


「…良かったんですか?それで?」


複雑だったんじゃないだろうか。
アル中だったというお父さんのことは、心配も何もなかったのか。


「良かったんだよ。俺は母親に笑ってて欲しかったから」


ハッキリ口にした轟さんの目に薄っすら涙が浮かんでた。
苦労をしてきた相手に、安堵をあげたかったんだろうと思う。


「お母さん思いなんですね」


私よりも数段、家族思いな人だ。


「普通だろ」


そんなことない。


「立派です。副社長は」


私ならもう二度と結婚なんて勧めない。
今が良く見えても、先で変わることだってあり得るから。



「サンキュー」