ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「拓磨さんの先妻は兄貴が中学生の頃にガンで亡くなった。俺の母親が飲んだくれでアル中だった親父と別れて、トーイ・トドロキに入社した頃のことだ」


昔話もいいとこ。
でも、この話はトップ・シークレットじゃないのか。


「母親はその頃から社長付きの秘書をしてた。奥さんが亡くなった後、拓磨さんがショボくれてるのを何度も目にしていた」


小さなおもちゃ屋を大きくしていこうと頑張って、やっと軌道に乗り始めたばかりの頃だった。

仕事の忙しさにかまけてばかりいて、奥さんの体調を気遣う余裕もなかったらしい。


「『妻が亡くなったのは自分のせいだ』と言って責めてばかりいるって聞いた。このままじゃこの人もアルコールに陥るんじゃないかと危惧してた」


「それで再婚を…?」


私の質問に答えようとした彼が微笑んだ。
口を開くわけがないと、ひょっとしたら思ってたのかもしれない。


「そんな単純な思いで再婚したりしない。俺と母親は、随分と苦労を重ねてきたから」


背けられた顔が苦々しそうだった。
いろんな苦労が、幼いこの人の身に起こってたんだ。


「陰ながら拓磨さんを支えてやろうと決めて母親は一生懸命フォローをしてやってた。好きなのかなって思わせるところも幾つか見えてたけど、なかなか結婚はしなかった。

そのうち俺は思春期になり、反抗期が始まって、毎日母親のことが煩わしくて仕方なくて荒れた。外見悪そうな奴らとばかり付き合うから、いろんな意味で心配もさせて」