今まで以上に働きづらい。
オフィスで彼と会ったら、私はどうすればいいのかわからない。


床ばかり見て歩く?
バカにされるのなんか懲り懲りだと思ってたのにそれをする?

検品作業にも身が入らなくなったらどうする?
そしたら私は、あのオフィスで一体何をしたらいいの。



(やれることなんて何も無いよ……)


人とも話せず、パソコン操作だってできない。
唯一商品と関われる検品をすることが大切で、重要な役目だったのに。



(バカだ……)


谷口だと名乗った人の素性を知ってから好きになれば良かった。
ファーストキスを奪われても、お姫様みたいに扱われても、本気になんてなるんじゃなかった。

告白なんてするんじゃなかった。
話せない口のくせに、余計なことばかり喋る。



「……うっ……ひっ……」


もういい加減泣いてもいいよね。
メイクが台無しになっても、困るのは私だから。



「ふっ……ぐずっ……」


声に出さないで泣くのって難しい。
極力ガマンしようとしてるのに、やっぱり少しずつ漏れていく。



(早く帰って思いきり泣こう!)


カタカタと歩く速度を上げる。
足早に動く私の耳に、楽しそうなパイプオルガンの音色が聞こえてきた。



(あれは……)


下を向いてた目線を上げる。
目の前に広がってるのは、闇を照らす光の洪水。



(メリーゴーランド……)