ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

(……ダメ。やっぱり話せない……)


威勢よく話せたのはケイじゃなくホタルになりきってたからだ。
本当の私は吃るだけじゃなく、声までも固まって出てこない。

手に握った風鈴と同じ。
コロン…とさえも言えない……。



「ケイ?」


そんなに近づかないで。


「好きだよ」


(はっ…?)


「さっきの告白の返事。これからもまた会いたい。約束果たしてねぇこともあるし」


それは、ヤンキーの谷口さんとした約束でしょ。


「そそそ、それは、た、谷口さんとの、約束、です……」


「だから?」


「ふ、副社長とじゃ、ありませ……」


ん…を言う口が塞がれた。
寄ってきた彼が、私の唇を奪ったんだ。



「ん……」


離れようとしても吸い付いてくる。


(ヤダ……こんな人前で……)


ぎゅっと手を握った。
コロッと鳴った風鈴の音に気づき、彼の唇が離れていく。



「バカ……」


こんなキスをする人を私は求めてなんかない。


「ケイ…」


もう名前を呼ばないで。



「副社長…」


私が呼べるのは貴方の肩書きだけ。


「ごめん」


謝らないでいいから。


カタン…とパイプ椅子から立ち上がった。
恥ずかしくて、上を向く勇気なんてない。



「帰ります……」


そして、もう2度と会わない。


「ケイ!」

「乃坂です!」