「あっ……」


もしかして、あの寿神社の祭りの時……


「カレシにいつもの自分とは違うところを見せたいって言ったんだよな?」


呆れてる。
そんなことまで耳に挟んだのか。


「兄嫁が『いつものケイが可愛いのに』って言いながら選んだ浴衣をチラ見した。派手な色合いと柄で似合うのか?と思った」


似合わずにドン引きされた。
郁也だけじゃなく、この人もきっと同じだ。


「寿神社の祭りでその浴衣を見かけて…」


ギクッ。


「一瞬ケイかどうか疑った」


(ああ、やっぱり…)


「綺麗すぎて」


(はっ…?)


驚いて見返した。
この人、目悪いんじゃないの!?


「俺、オフィスで見るジミなケイしか知らなかったから」


ナチュラルメイクにお団子頭。
オフィスでは、いつも床ばかり見て歩いてる。


「はりきって準備したんだろうなって思った。その割には一人だからおかしいと思って」


呼び止めるつもりで声をかけた。でも、私が振り向きもしないもんだから……


「業を煮やして立ち上がった。振り向いたその子が泣きそうな顔してたから、事情を聞く為に金魚すくいに誘った」


そんな前のことでもないのに昔話のような感覚。
語り部のような口調で、彼は話を続けた。


「一万円札を出してきた時は驚いた。一体何考えてんだと呆れたけど、ケイはへたくそ過ぎて魚には逃げられるし、それでもやり続けようとするし…」