「隠しても仕方ないから」と、轟さんは長財布から名刺を取り出した。


「俺の肩書き」


スッと出された紙の上に書かれた文字を見つめる。


『株式会社 トーイ・トドロキ 代表取締役代理 轟 大輔 』



(代理……?)


チラッと目線を上げた。


「つまり、副社長ってこと」


ドキン。


「いい加減な肩書きだろ」


呆れながら名刺をしまい込まれた。



「……や」


っぱり…。


「ケイのことは以前からオフィスで見かけてた。商品開発部の部長の姪だってことも知ってる」



イヤな人だ。
全部知った上で私と会ってたのか。



「どうして…」


なんで何も言ってくれなかったの。


目の奥が潤み始める。
ショックすぎて言葉にならない。


「俺が副社長だと言ったら会ってくれなかったろ」


目の前にいる男が申し訳なさそうに呟く。


「そりゃ……」


当たり前。
そんな上役とマトモに話なんてできない。


「ケイは吃るグセがあるって聞いてた。いい子だけど、自分に自信がないって」


誰から?
まさか、叔父さん!?


「兄嫁が話してるのを聞いた。話してた相手は俺の兄貴」


たわいのない家庭での会話。聞いてないフリをしてたそうだ。


「ど、どうして真綾はそんな話を……」


口の堅そうな人なのに。


「浴衣貸して欲しいって頼んだだろ?」