ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

(轟さん……なんだ……)


逃げ去った背中を目で追いかけた。

彼は休憩所の横に設けられた救護班のテントへ行ってる。
そこで中年の看護師と話をして、救急箱を手にして戻ってきた。



「手当てするから足を見せろ」


「い、いいです!自分でやるからっ!」


副社長かもしれない人に手当てをさせるなんてとんでもない。
そんな事させたら恐縮する。


「いいから見せろ!帯が邪魔でできねぇだろ!」


「…は、はい…!」


ジロッと睨まれて固まった。
谷口だった人は笑いもせず、私の足を自分の膝上に持ち上げた。


「しみても泣くなよ」


子供じゃないから泣いたりなんてしない。



「イタッ!」


ジーンとしみた。



「あーあ、皮捲れてるし」


痛そうだなと呟きながら消毒をして水気を拭き取る。
カットバンを箱から取り出し、バッテンになるよう貼り付けた。



「こうしとかないと剥げるだろ」


どこまでフェミニストなんだ。


「救急箱返してくるから待っとけ」


さっさと離れるし。




(お礼言うの忘れた……)


バッテンに貼られたカットバンを見て思った。
現実の王子様はガラスの靴じゃなくて、カットバンをくれるんだ。



(これがお似合い)


これだけでも十分過ぎるくらい。
アガリ症で吃りグセのある私には丁度いいくらいの不格好。



(祭りなんて嫌いになりそう……)


そんな気持ちになってくる。