ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「………谷口じゃない」


雑踏に紛れて声が聞こえた。


「えっ……」


疑いつつも後ろ頭を見上げる。

アロハシャツを着た人は立ち止まって振り向く。
真剣な目を見て、ドクン…と胸が鳴った。



「谷口というのは母方の姓。ホントの名前は『轟』」



(轟……?)


やっぱり…と思うが早いか、鼓動が鳴り始める。
認めたくもない思いが重なって、つい繰り返してしまった。



「轟……さん?」


オフィスの社長と同じ名前。


「…ああ」


言葉短く認めた。
目を伏せて背中を向けると、視線を先の方へ伸ばした。


「もう少し歩こう。この先に休憩所がある」



手を離さず歩きだす。
ドクン、ドクン…と、鈍い音が鳴ってる。


参道の脇にテントの屋根が見えだした。
露店で買ったモノを食べれるよう、椅子とテーブルが置いてある場所。



「座れよ」


手前の空いてる椅子を引いた。


「…………」


ありがとうも言えず、無言で椅子に腰掛ける。


「足見せてみろ」


跪くなんて……


「あっ、あの、ちょっと…!」


拒否もできない。

スッと脱がされた下駄。
ヒリヒリとしていた指の付け根は、真っ赤な色に染まってる。


「皮が剥けてる」


水泡が潰れたんだ。


「待ってろ」


どこへ行く!?


「あの、ちょっと、た……」


…にぐちさんじゃなかった。