ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「早くしろよ!」


命令口調だし。


「あ…ああ…」


谷口に目線を配り、吊るしてあった風鈴を外した。



「幾らだ」


お財布を出そうとしてる。


「金はいらねぇよ。…だって」


「売り物なのに要らねぇはないだろ!」


覆い被さるような言い方。
羅門という人はキョトンとして、谷口の顔を拝んだ。


「じゃ、じゃあ…1000円」


怯えるように答えた。


「ん…」


やはりピン札を差し出す。

羅門さんは風鈴をクッションシートに包んで箱の中に入れた。
口の端をセロテープで止め、私の方へ向けた。


「ハイ!ホタルちゃん」


ギクッとした。
やっぱり私ってバレてる。


「ケイだ」


谷口が横から手を出して呟いた。


「えっ?」


意味がわからなそうな顔つき。


(そうだよね…)


呼び方違うもん。
同じ人間なのに、呼び方一つで別人になってる。



「行こう」


背中に手を回された。


「あ……」


挨拶もしてないけど!?


谷口は何処となく不機嫌そうに見えた。
この間と言い今と言い、この人は友人にいつもあんな態度なんだろうか。



「谷口さん…」


急ぎ足で歩く男の名前を呼んだ。
振り向きもせず、黙々と前を向いてる。



(もうっ!)


「待ってよ!」


足が速過ぎる。
さっきから親指の根元に鼻緒が食い込んで痛いし、そんなに引っ張られたら歩きにくい。