ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「何よっ、これっ!」


コーンのより早いじゃん!

声を出した私に金魚すくい屋の男性が睨みを利かす。


「行くぞ」


谷口が腕を掴んだ。


「ちょっと、離して!」


無理矢理立ち上がらせようとする。


「谷口さん…!」


あの金魚をもう一度掬わせて。
自分みたいに思ったから、掬えたら可愛がって育てるんだから。


「露店の金魚なんて追うな。寄生虫とか病気とか持ってる」


詳しそうなことを言う。
やっぱり副社長じゃないのか。


「どうしてそんなに詳しいの!」


タネ明かしをしてよ、いい加減。


「ボランティアで手伝いしてる時に生産者の所へ行ったんだ。露店で売られてる金魚は値段が安い分、病気や虫に弱いって聞いた」


寿神社の夏祭りで扱ってた金魚は、キロあたりの値段が少しだけ高いと言った。
そう言えばさっきのよりも、少しだけ大きくて色がキレイだった気がする。


「あの時は高価なやつも入れてたんだ。夜店の金魚にしては珍しい種類のやつとか」


前に言ってた『キャリコ』とかいうの!?
貴方が飼ってるのも、そこで貰ったもの!?


「金魚飼いたいなら夜店で掬わなくてもいい。ペット屋に行けば幾らでも売ってる」


それじゃ意味がない。
自分で得たものじゃないから。


「私は自分の力で掬いたかったの」


手に入らないものが入ったら幸せになれるような気がした。
何処にも落ちてない恋が、水の中にはある気がした。