「1万円分?」

「まさか!1回だけよ!」


パラソルの下に広がる水面を眺めて言った。
谷口は笑いを噛みしめ、そっちに向いて歩きだした。




「いらっしゃい!」


中年男性が店番してる。


「1回300円だよ」


高〜い!


「二人とも1回ずつ」

「600円だね」


愛想もなく返事がある。
小銭がないと言ってた谷口は財布から千円札を差し出した。

お釣りと同時に手渡されたポイは、プラスチック製の輪っかに和紙が貼られたお馴染みのもの。



「こんなんで掬えるのか?」

(あんたの作ってたのも同じようなもんよ)


何も言わず水の中を見つめる。

赤い金魚や黒い出目金が水面近くに浮いてきてる。

寿神社のような3色のはいない。

代わりに白くて大きいのがいる。



「デカいのは狙うなよ。直ぐに紙が溶けるぞ」


ポイを片手に谷口がアドバイス。


「わかってる」


そうは言っても1回だから大物が狙いたい。



(…っよし、アレにしよう!)


真っ白い鯉みたいなの。
所々赤くて、今日の私みたいだと思えば思えなくもない。


じーーっと気合を入れたままで待つ。
ポイは沈めず、水面近くで待ち構えた。


少し経つと、白いのがスイスイと泳いできた。
掬おうとするポイの嵐を掻き分け、私の方へ近づいてくる。



(…今だっ!)


サッ!とポイを差し出した。

一瞬紙の上に乗ったけど、やっぱり溶けて落っこちた。