ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

「谷口さんっ!?」


何だって言うの、いきなり。
知ってるってどういう意味。


「ホタルがケイだというのは知ってる。ずっと前から見てたから」


背中を向けたまま呟かれた言葉。
その言葉の意味は何!?


「ずっと前からって、どういう意味!?」


何も答えてくれない谷口。
話があると言ったのは、そっちも同じだったじゃないか。


ぐっと下唇を噛みしめる。
谷口の言ってる意味がわからず、次の言葉を待ち続けた。



「とにかく水天宮へ参ろう」


足を速める彼に引っ張られるようになった腕を伸ばしたままついて行く。

カラコロと下駄の音が響く。

雑踏に紛れながら、まるで鈴の音のようにも聞こえる。



「俺の話は後でする」


やっと振り向いた谷口が喋った。
水天宮の下にある、鳥居の前に来ていた。

背後には急な階段が続いてる。
そびえ立つ朱色のお堂が、白い門壁の上に乗っかってる。



ドクン!と胸の奥が鳴った。
ぎゅっと下唇を噛んで彼の顔を見上げた。



「そんな顔するなよ」


じゃあどんな顔をしろって言うんだ。


「これがホントの私だと言ったでしょ!」


下唇を噛むのがクセなのよ。

無くてもいいけど、あるのがクセってもんでしょう!!



イライラとさせられる。
寿神社の時と言い今と言い、どうして祭りの夜にはロクな事がないんだ。