ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

寿神社のお祭りの時には1匹も掬えなかった。
今夜こそ1匹くらい掬おう。


(掬えたら可愛がって育てるんだ)


別の意味でワクワクしてくる。
谷口と待ち合わせのはずなのに、心は金魚との対面に繋がってる。


(そう言えば、あれから副社長が飼ってる金魚の話は聞いてないな…)


そもそも今週は真綾とランチタイムに会わなかった。

社長と一緒に支社を回ってるということだったから、きっと忙しいんだろうと思う。



『いい思い出作ってね』


昨夜寝る前に入ってきたLINEのメッセージ。
半分眠ってたから『うん』とだけ返した。


「あっ!しまった。写メ撮るの忘れた」


この間と真逆のことをしようと思ってたのに。


「まあいいか。撮っても顔が写せない」


独り言言ってる間に水天宮の駅に到着した。
午後7時近くになっても外はまだ明るくて暑い。

扇子持ってきて正解だった。
おかげで風が送れる。



「ふぅ…」


パタパタと仰ぎながら待ちぼうけ。
とっくに7時は回ってるのに、谷口はなかなか現れない。



(自分で指定しといて何よ)


副社長かもしれないのに時間に遅れてもいいの!?
平社員は待たせても平気な人種なわけ!?


周囲では待ち合わせしてるらしい人達がぞくぞくとカップルになってく。

さっきから待ってるのは私くらいのもんだ。



(ひょっとして……)