ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

タクシーは使わず電車に揺られる。
寿神社の時とは、敢えて反対のことばかりした。


(こんな事したって、フラれる時はフラれるんだけど)


気持ちまで真逆というのもどうだろう。
でも、今日の自分には自信がない。


(気分的にはラクだけど)


人の視線を集めない分ラク。
水天宮のお祭りは市民が多く集まるから、電車内には何人もの浴衣を着てる人が立ってる。

その中でも自分の浴衣は目立たない方だと思う。
大きな柄でも無ければ奇抜な色合いでもない。


(やっぱりこれにして正解だった)


車窓に映る浴衣姿にほくそ笑む。

真綾たちが私に似合うと言った浴衣は、クリーム色した生地のもの。
透し模様のように桜の花が描かれてて、それがブーケのように集まってたり、ポツン…と小さく一輪だけ咲いてたり。

手書きのように引かれた水色のラインが等間隔に並んでいて、その上を花びらが溢れるように散らされていた。


『カゴと下駄にも合うよ』


楽しそうに見ていた二人の顔を思い出した。
いつもの自分らしい格好で自信はないけど、それなりには嬉しい。


(これで笑われても諦めがつくってもんよね)


気持ち張ってないから当たり前。
でも、笑われたら殴る!


(怒って怒鳴り散らしてしまうかもしれないな……)


それでも今夜こそ神様にお参りして帰るんだ。


(そうだ。金魚すくいもしないと!)