ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

鏡の中に映る薄化粧の自分。

チークカラーは淡いピーチ。
シャドーはホワイトを目頭に付け、ブラウン系のカラーを塗った。
目がハッキリして見えるからラインはクロ。
まつ毛をマスカラで伸ばし、ビューラーで少しだけ持ち上げた。

ヘアスタイルはあれこれ迷ったけどアップした。
髪留め用の隠しピンの隙間に差したのは、小花が集まったようなコサージュ。

真綾の結婚式の日に付けたもの。
簪よりも私らしいと、聖と真綾が言ったんだ。


「後はルージュとグロスね」


浴衣はさっき着替えた。
帯が少し苦しいけど、きつめにしておかないと崩れる。



「ふぅ…」


イスに座るのも苦しい。
この後、水天宮のある駅まで行かないといけないのに。


「あれこれ考えてないで塗ろう」


ルージュの色は控え目なピンク。
ラメの入ったグロスを塗り重ねてツヤツヤと健康的な色合いに落ち着いた。



「うん。やっぱりこれが私だ」


似合いもしないレッドやオレンジ系は避けて良かった。
一重のように見える奥二重もホワイトのおかげでメリハリがある。


「少しだけ目が大きく見えない?」


自画自賛。
褒める人がいないから。



午後6時を回り、「よし行くぞ!」と気合を入れる。

「行ってきます」と祖母に声をかけた。

遅くなるかも(帰らないかも)しれないなんて、余計なことは言わずにおいた。