ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

自分を励まして週末までを乗り切った。
土曜日を目前に控えた金曜日の午後、谷口はやっと連絡をしてきた。



『久しぶり。元気か?』


能天気な男。
こっちの気も知らないで。


『まあまあね』


私も同じようなもんか。


『この間は悪かった。明日午後7時、忘れてねーよな?』

『忘れてません!』


感嘆符まで付けて送り返してしまった。
強気な自分でいるのはやめようと思った端からこれだ。


『もしかしてまた浴衣か?』


どうしてそんなことを気にする?


『ナイショ』


これじゃ浴衣ですと言ってるようなもん。


『下駄投げるなよ』


『谷口さん次第ね』


文字交わしてるだけなのに面白くなってきた。
会話してるみたいで声が聞きたくなる。


『早く会いたい』

打ち込みそうになって慌てて文字を消去する。


『またな』


きゅん…と胸が切なく鳴った。


『うん。明日ね』


ゆっくりと文字を打って送信した。
暗くなってく画面を見続け、きゅっと下唇を噛みしめる。



「バカ……」


自分だけが谷口のことを好きみたいな錯覚に陥る。

でも、それが真実なのかもしれない。


「あーあ……」


やりきれなくなってくる。
男にも恋愛にも慣れてない私は、ダメ女の典型例のようだ。


(それでも精一杯自分らしい格好で会おう)