ただあの子になりたくて



「あっ、ちょっとごめんなさい」

ジーンズのポケットからケータイを取り出したお母さんは、私たちに頭を下げて部屋を出ていく。

蒼介と拓斗は、私の名を呼びながら、ベッドのそばに途方もなく立ち続けていた。

私は靴音を立てないように気を付け、廊下をこっそり覗き見た。

廊下の壁際に張り付き、何やらケータイで話している。

耳を研ぎ澄ませば声が聞こえてくる。

「あなた、こんな時にまで仕事? 全部、私に押し付けて?」

相手は間違いなく相手はお父さんだ。

「……もういいわ。あなたを頼ろうとした私がばかだった」

すぐにケータイが下ろされたので、私は室内に引っ込んだ。