ただあの子になりたくて



それもそうか。私の言葉でも、あれは椿の話。結局は椿。

拓斗ならきっといてもたってもいられなかっただろう。

耳元に切ない吐息が微かにかかる。

「さっきのは忘れて。なんでもない」

そう囁いた拓斗は、頑ななまでに振り返らず、奥の照明の落とされたエリアへと進む蒼介を追う。

私はほっと力が抜ける。

姿まで変えたのに、まだあの記憶を語りたくはない。

私も急いで、薄暗い廊下へと吸い込まれていった。

3人とも無言でエレベーターに乗り、ちょっぴり消毒のアルコールのつんとしたにおいを感じながら白すぎる廊下を歩いていると、いよいよ私の名前だけが書かれた部屋が見つかった。

蒼介がドアをノックする。聞き覚えのあるワントーン高めの声が、ワンテンポ遅れて響いた。