ただあの子になりたくて



ヒロインは、椿のものだから。

道化は、隠れたところでだけ涙を流せばいい。

「私なんか、うらやむだけで、精いっぱいよ」

私がそう言葉を零した瞬間、そいつは頬杖を突き、呆れたように大きな息をついた。

「うらやむ? 何で人間というのは、そんな飾った言葉を使うんだろうね? 不思議でたまらないよ」

大袈裟にすくめられた肩。

唇は楽しげに弧を描く。

「じゃあ、そう思うならなぜ君は、わざわざ自分の死を選んだんだい?」

言葉が鋭く胸に突き刺さる。

「君の心は嘘をついている。人間は欲深いもの。君は雑草じゃなくてヒロインになりたかったのさ」