ただあの子になりたくて



「今ほど距離は近くなかったけど………、中学の時からね」

きっと、どんな子にだってやさしかった彼は覚えていないだろう。

初めて、彼が私を見つけてくれた瞬間を。

それは、私の中だけの鮮明な記憶。

あの頃、調子のいい女友達から強引に掃除当番を押し付けられて、掃除していたとき。

『宮里ってえらいよな。一緒に早く終わりにしような』

突然、私の世界に入り込んできた言葉。

あの時、私の世界は初めてきらめいて見えた。

彼の人懐っこくくしゃりとした笑顔が、今も色濃く焼き付いているほどに。

ただ、私を見てくれている人がいた、それがとてつもなく嬉しかった。

誰だっていい都合の良い友達としてでなく、理想に固められて見てもらえない娘としてでもなく、私自身を見てくれた。