ただあの子になりたくて



知らない言葉のように、短い、たったの5音が、頭の中を浮遊する。

そんな私の前でそいつは、体を大袈裟にゆすり、ケラケラと笑う。

やっと笑いをおさめると、そいつはくるりと体をこちらに向け、突然表情を消し去った。

「何を驚いているのさ。契約は対等な価値のものの交換。僕はきっちり、仕事に見合うだけの対価をもらう」

そしてそいつは、私の目前に空っぽの掌を差し出した。

「君の無様なあがきにももう飽きたからそれはいらない。じゃあ、今の君に差し出せるものは何がある?」

私はぼうっと自分と同じその手を見つめたまま、沈黙する。

今、私の手には何があるだろう。

クラスでは、私がいなくなっても話にすら出なかった。

お父さんとお母さんも不幸な親を演じているだけ。