ただあの子になりたくて



「そんなこと、ないんじゃないかな……」

声を零さずにはいられなかった。

心はぐちゃぐちゃで彼の顔など見られない。

私はとことん卑しい人間だ。

彼を慰めるときでさえ、嘘が半分、本当は半分だけ。

「人間にできることなんて、もともとほんのちょっとだよ……。仮に何かできなかったとしても、今こうして思ってもらえることは、間違いなく幸せなはずだよ……」

だからどうか、あなたが心をいためないで、口に出さずに願う。

私はすっくと立ちあがる。

彼の視界に入らない場所で、湿った頬を払う。

「次の練習が始まる前に、気合い入れるのに顔洗ってくるね」