「あっさりしてたかな」

私はぽかんとして肩から力ががくりと抜ける。

尚も監督は立ち上がって続ける。

「王子様に恋する気持ちと、かけがえのない愛する家族との狭間で、なんかこう、もっともっと揺れ動いて、もがいて、悩んでほしいの」

私は砂をつかむように、床へ押し付けた手を握りしめた。

そんなことを言われてもわからない。

私は精一杯に演じた。

人魚姫は結局、家族などよりも王子を選ぶのだ。

もう王子のために人魚姫は大切なものをなげうった。

なのに今更、家族を顧みるわけがない。