一瞬にして零れ落ちる笑み。

「おいひぃ~」

ほっぺたが落ちるとはまさにこのことだ。

口の中でパイがサクサクと音楽を奏でる。

口の中いっぱいに広がる、バターの香りと、リンゴの甘酸っぱい味。

私はゆっくりと噛みしめながら、情けなく顔を綻ばせる。

「ふふっ、よかった。やっと元気出たみたいね」

「えっ……?」

不意を突かれて、フォークが更にかたりと落ちる。

向かいに座る椿のお母さんは、アップルパイには手も付けずに、私をじっと見ていた。