「なあ、あの日、蒼介と何かあったのか?」
私はただ呆然と立ち尽くし、窓の外を見ていた。
車はせわしなく過ぎ、歩道を行く人はスマホを片手に足早に歩いている。
立ち並ぶ建物で狭い空はすでに、誰にも見上げられないままあの嫌いな色に燃えていた。
「それは……言えない」
だから私も目を背ける。
嫌なことなんて、目を背けてしまえばいい。
私は苦しいことから逃げるために、新しくスタートしたのだから。
背後に絡みつく拓斗の視線はいたかったけれど、振り向かずに歩きだす。
気を紛らわすようにストローに口をつければ、口の中にぬるい甘さが広がった。
それでも無理やりに呑み込んで、オレンジの広がるガラスのドアを、私は思い切り押し開けた。