今まで負けていたのなら、これから増やせばいい。
「おい~! 拍手は? 拍手! まさか聞いてなかったとかないよね⁉ え?」
いつの間にか曲はやんでいた。
拓斗がマイクをがっちり構えて素っ頓狂な声を響かせるから、私は咄嗟に耳を手で塞いだ。
「マジあり得ねえんだけど~。俺の歌で寝るとかマジないからなぁ~!」
あの自信家の拓斗が腰からがっくりとうなだれる。
ぶつぶつと放たれる恨み節に、私はつい吹き出しそうになりながら慌てて立ち上がった。
「ああ、ごめんごめん。次私歌うよ。何にしよっかな」
ここは普段、私のキャラでは歌えないかわいいアイドルの歌でも歌おうか。
そんな風に内心はしゃぎつつ、はっとして蒼介に顔を向ける。
一緒に歌うなんていうのも、名案かもしれない。