「私はね、去年のリレーの事なんて思い出したくもなかったんだ」
「えっ」
目を見開いて驚く槙野くん。
思ってもなかった言葉みたいで、目をぱちぱちとさせている。
「私にとったら辛い思い出だった。陸上部のくせにって言われてる気がした」
「そんな事……」
「ないよ、もちろんそんな事誰にも言われてない。でもね、そう思ってた。
そんな私の恥ずかしい過去を、槙野くんは希望を与えてくれたって」
「…………」
眉を下げ、悲しそうな顔をしている彼に私は微笑む。
「嬉しかったんだ。私の辛い過去を、槙野くんは一瞬で素敵な思い出に変えてくれた」
槙野くんに言われるまで忘れていたその過去。
苦い思い出が、彼の一言でキラキラと輝く。
だからさ。
「私も槙野くんを好きになったら、今の槙野くんじゃなきゃ嫌だって思うようになる」
「……藤さん」
「槙野くんは今の自分が嫌い?」
「うん」
「でも、私はそんな槙野くんを好きになるかもしれないんだよ」
「…………」
槙野くんはまだ納得していないようだった。
「ねえ、今の槙野くんを知りたいんだ。私」
「今の、僕?」
知らないでしょ?
私を好きだって言ってくれた槙野くんに、少なからずときめいている事。



