君の中から僕が消えても僕は君を覚えている。【完結】


「ちーちゃんが可愛いからって、異性として見るなんて汚らわしい。
私のちーちゃんなのよ。もうそんな汚い手で触れないで頂戴」

「…………」


絶句だった。
声にならないってのはこういう事を言うのか。


いつ、私が色目を使ったというのだろう。
義理の弟して接していただけなのに。


紗奈さんはずっと私と千風が仲良くするのが許せなかったのだろうか。
姉と弟してでなく、男と女として見ていたのだろうか。



「ずっと、ママと結婚するって言っていた可愛いちーちゃんが貴方に奪われてしまったの。
おかしいでしょ?」


そう平然と言いのける紗奈さん。
だけど、おかしいのは紗奈さんの方だ。


「今日から何も手伝わなくて大丈夫よ。全て私がやるから。
貴方は勉学に励んで頂戴ね」


ふふっと微笑む彼女は、朝食の準備に取り掛かった。
それはずっと見てきた変わらない彼女の笑顔。


そして、その時にやっと気付いた。
――――彼女のこの顔は仮面なのだ。


どんな時も彼女自身を崩さない為の。