君の中から僕が消えても僕は君を覚えている。【完結】


俯いていると、紗奈さんが話し出した。


「今日は瑠美子ちゃんに私を知ってもらいたかっただけだから、帰るわね」

「もう帰るのか?食事でも行こうと思っていたのに」


驚いた口調で紗奈さんに言うお父さんに、紗奈さんは首を振った。



「今日は親子水入らずで話しした方がいいと思うわ。
それに私も息子を迎えに行かなくちゃいけないの」

「そうか……、それじゃあ送っていく」

「いらないわ。タクシー呼ぶから平気よ」


にっこりと微笑む紗奈さんは椅子から立ち上がる。
お父さんも一緒に立ち上がった。


「瑠美子ちゃん、本当に今日は突然ごめんなさい。
また会ってくれるかしら」

「……うん」

「本当に?嬉しい」


優しく目を細めた彼女は、お父さんに玄関まで見送られて家を後にした。
戻って来たお父さんは気まずそうに、視線を彷徨わせている。