お母さんが大切にしていたドレッサーの中身。
とても綺麗で、子供ながらに憧れていた。

父親が酒臭くなって帰ってくる前は、優しい家庭だった。
お母さんはとても綺麗で、いつもキラキラしたアクセサリーを身につけて笑っていた。

その中に、ひときわ輝いている指輪があった。
お母さんに何度もねだると

「あなたが結婚するときになったら、あげるわ。いい人を見つけなさいね」

と、おとぎ話のような甘い仕草で人差し指を唇に押し当てて囁いた。
その指輪は、お母さんのお母さん、そのまたお母さんのお母さんから、ずっと引き継いできた大切な指輪なんだと、続けて教えてくれた。

たまにこうして、こっそり着けては、うっとりと、眺めてみる。
お母さんがいなくなった今、これが心の支えだった。

私は素敵な人と結婚をして、この指輪を着けてお母さんのように優しく微笑むのだと、少しだけ綺麗な世界に身を沈めることができた。

忘れもしない、あの日のことを。
周りが浮き足立っているバレンタインデーの近くのことだった。
高校三年生、最後の冬。
就職先が決まり、イジメられてた学校ともおさらばできる。
そう思い、ドレッサーのイスに座った。

しかし、どこを見ても、ドレッサーの中身と、あの素敵な指輪が見当たらないのだった。

わけがわからず、何度も何度も家の中を探した。

結局、どこにもドレッサーの中身と、素敵な指輪はみつからなかった。