少し拍子抜けする。


「上履きやのうてスリッパ履いてるってことは間違いないかな?」

「うん、俺の鍵だ」

「そう。放課後、声かけてくれた時そういえば手に持ってたなって思い出してん。合ってて良かった」


小さな手が俺の手を取り、しっかりと握らせる。


「もう落としたらあかんよ」

「……ありがとう」

「どういたしまして」


じゃ、と。
最低限を用を済ませ、早々と立ち去った西宮。
そして彼女に向けられる残念そうな叫びと野次を背中で聞く。

落ちていた鍵を届けてくれた。
それだけだ。
本当に、ただそれだけ。


「(馬鹿馬鹿しい)」


どこか息苦しい教室の空気を断ち切るように、俺は下駄箱へ向かった。