かつてこの山で、御影城主率いる小国と、大国の戦があったのだという。

圧倒的な兵力差で迫る大国に御影の軍は為す術もなく。

城には火矢が放たれ、城は勿論、山までもが炎に舐め尽くされ、真紅に染まったのだという。

たった一夜にして滅亡してしまった、御影城とその一族。

桃香姫の心中は察する。

死に追い詰められる恐怖、愛する男と引き裂かれる悲哀。

それらの感情がない交ぜになり、やがては憎悪へと変わっていったのだろう。

悔やんでも悔やみきれない非業の死。

悪霊と化してしまう気持ちもわからなくもない。

わからなくもないが。

「すごい気配ね…」

私は山道を歩きながら呟いた。

…かつては剥き出しの山道だったのかもしれないが、今では人の手が加えられ、多少歩きやすくなっている。

しかしこの山道に立ち込めるのは、明らかに何らかの『気配』だった。

それは人でも、獣でもない。

人外の者が持つ特有の気配。

東洋風に言うなら『妖気』の類だった。